☆H氏賞受賞詩人の井上俊夫氏、逝く

 H氏賞受賞詩人で、従兄の井上俊夫氏が今日午前2時過ぎに、肺炎がもとで死去しました。
 刊行を楽しみにしていた、今年晩秋発行予定の『詩集 八十六歳の戦争論』を手にすることなく逝っていまいました。できれば、詩集を手にしたうえに、その評判を十分聞いてからであってほしかった。そして何より二人で出版を記念して、祝杯といきたかった。残念無念。本人が一番口惜しがっているに違いない。もう半月もすれば、製本されるはずなのです。全く運命というものは、かくも過酷なものなのでしょうか。「おそらく圭ちゃんとする最後の仕事になるかもしれへん」とゲラ刷りの校正をしているときに、体調を案ずるわたしに本人がいっていた通りになってしまいました。
 長男の俊春氏によれば、20キロも痩せるほど体力を失い、ひとりで寝起きもままないながら、「徒然草」「枕草子」「方丈記」などの古典の文庫本(単行本だと重いから)を買ってくるようにいい、ベットで読んでいたというのです。その時、今度の詩集にも出てくる芥川龍之介の「侏儒の言葉・文芸的な、あまりに文芸的な」も買ってきたら、「侏儒の言葉」は暗記するぐらい読んだといっていたそうです。また、記憶力は最後まで衰えていませんでした。固有名詞は何のよどみもなく、すらすら出てくるのでした。
 校正を何度か済ませ、最後のゲラ刷りをみてチェックしてOKを出し、自分の頭のなかで出来上がった詩集をイメージし、“これでよし”と思ったのでしょう。そこで力尽きたということなのでしょうか。表紙・扉の絵、本文の章ごとの挿画については、わたしを全面的に信頼してもらい描かせていただきました。軍隊生活の経験のないわたしの間違った描写については、事実に基づいて懇切に間違いを指摘し、正しく訂正するように丁寧に指導してもらいました。それ以外は、全く自由に任せてもらいました。
 ふたりは、どちらの兄弟よりも互いに、容姿、仕種などよく似ているとみんなから言われていました。ジャンルは違いますが、同じ芸術の道に入ったふたりはいわば同志でした。
 時折わたしも詩を書きますが、詩については俊夫氏(雲の上の人なので)に師事を仰いだことはありませんでしたが、二ヶ月ほど前に、詩集のことでメールのやり取りをして、初めて二編の近作の詩を添付しましたら、暖かい感想が寄せられました。今となっては、後にも先にも二度とない助言のことばになりました。
 いくら綴っても綴り足りない気持ちです。いまにも、「ぼくやけど」と電話が掛かってくるような気がしています。
 今夜7時からのお通夜には、詩人仲間の原圭治氏、かもがわ出版の湯浅俊彦氏も参列くださいました。
 俊夫兄のご冥福をお祈りします。
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★★★★★わたしからのお勧め

初めて人を殺す―老日本兵の戦争論 (岩波現代文庫)

初めて人を殺す―老日本兵の戦争論 (岩波現代文庫)

八十歳の戦争論

八十歳の戦争論

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